~「開発途上国等におけるスポーツ機会の提供支援」~
(独立行政法人日本スポーツ振興センター再委託事業)
今回、スポーツ・フォー・トゥモローの一環として開発途上国であるカンボジアのサッカーのさらなる普及・発展に寄与すべく、今までの実績をもとに現地サッカー指導者、及び少年・少女に対し、サッカー講習会を開催しました。
日本からのスタッフ・・・15名
カンボジアスタッフ・・・30名
参加者・・・1135名(実数300名)
場所・・・カンダール州立サッカー場
◆活動内容◆
本事業は、2017年2月にカンボジア王国の首都、プノンペンにおいて、現地のサッカー指導者及び選手に対してサッカー講習会を実施するものである。
具体的には、カンボジア国内のサッカークラブの中から、14歳以下のサッカーチーム(男女問わず)とその指導者を招待し、サッカー講習会を開催する。講習会に関しては1日目、2日目には指導者向けの指導講習会を実施、3日目、4日目には14歳以下の選手に対してサッカーの技術指導を実施しました。
成果としては、次のとおりです。
1)S級ライセンスをもっている栗本直氏(神戸学院大学サッカー部監督)とB級ライセンスをもっている山田寿樹氏(大阪府教育委員会)を中心に、現地指導者へサッカーの指導講習、選手に対して技術指導を実施しました。
すばらしい指導の元、現地指導者の指導力向上、選手の技術力のアップとスポーツマンシップの精神性の育成を図ることができました。
2)サッカー講習会を開催し、日本の学生たちの指導の元、子どもたちのサッカーに対する意欲への動機づけと競技力の向上を図ることができました。
3)女子サッカー選手の指導と交流によって、カンボジアの女子サッカーの技術の向上とともに、カンボジアの女性の地位向上、男女共同参画の機運を高め進展を図ることができました。
Ⅱ.事業内容及び事業成果、裨益者数に関して
◆事業スケジュール◆
2月23日(木)
サッカー指導講習会の実施(現地指導者対象)
2月24日(金)
サッカー指導講習会の実施(現地指導者対象)
2月25日(土)
サッカークリニックの実施(現地の子供たちに対して実施)
2月26日(日)
サッカークリニックの実施(現地の子供たちに対して実施)
2月27日(月)
テストマッチ実施
上記のスケジュールでサッカー講習会及びテストマッチを実施した。
なお、講習会の時間帯に関しては、気温を考慮し、明け方(8:00~)または夕方(15:00~)より1日3時間を目処に実施した。
◆本事業の概要◆
今回、日本より渡航した日本人指導者はJFA(日本サッカー協会)公認S級ライセンス保有の栗本直氏、同B級ライセンス保有の山田寿樹氏(大阪府教育委員会)、プール学院大学教育学博士の中村浩也教授の計3名に同行頂き、プログラムの構築、及び実施を依頼した。
そのほかに、神戸学院大学の学生6名、プール学院大学の学生3名、神戸市立外国語大学の学生2名、麗澤大学の学生1名、本団体コーディネーター1名の合計16名で本事業を実施した。
今回実施したグラウンドは土と芝の混在した凸凹も激しい状況であった。またカンボジアは今、乾季で、グラウンドの土部分は干上がっており、非常に固く日本人の感覚からするとサッカーをするには非常に不向きなグラウンドであった。また、カンボジアの人々はゴミを定められた所に捨てるという感覚が極めて希薄な為、グラウンドは、ペットボトルのふたや、ビニール袋等のゴミが散乱している状況であったので、日本人スタッフ総出でまずはグラウンドに落ちているゴミを拾うことから始める事となった。
◆本事業の活動内容と成果◆
【活動内容】
2月23日及び24日の2日間は現地の子供たちにサッカー指導している指導者を対象に日本人指導者が、コーチングのトレーニング及びトレーニングメニューを実践した。
サッカー指導を行うにおいて日本と大きく違う点として、サッカーを指導している者の多くがサッカーのプレー経験がない、または、指導を受けた経験がないという点がまず挙げれる。日本で多く見られるサッカー少年団等では、少なからずサッカー経験者であり、サッカーの指導を受けた経験のある保護者や教員が子供たちに指導するケースが一般的であるが、カンボジアの一般的なチームにはこれは当てはまらない。
※プロのユースチームやサッカースクールはこの限りではない。
なので今回指導するにあたり、簡単なパストレーニングや3対3の攻防など、非常に基本的なトレーニングや効果的なウォーミングアップを実施した。なお、この2日間の参加者数は18名である。
翌、25日、26日は、カンボジア プノンペン近郊のサッカーチームに所属する少年・少女を対象にサッカークリニックを実施した。
2日間でのべ300名の少年・少女が参加し、1日あたりおよそ150名の子供たちが参加した。このため参加者を5つのグループに分け、それぞれのグループでトレーニングメニューをこなした。また26日には中村浩也教授による、現地でサッカー指導している指導者と現地選手に対して、サッカーで多く発生するケガの事例と、ケガが発生した際の処置方法に関して講演を行った。
また、こちらの子供たちも前日までの指導者同様、専門的な指導を受ける機会が少ないため、新鮮に感じたようで総じて前向きに取り組んでくれた。
最終日に当たる27日はこれまでの4日間の集大成として、トレーニングマッチを実施した。この日が月曜日にあたるため、少し現地選手の集まりが悪かったが、それでも学校終わ りにグラウンドへ駆けつけて40名ほどの選手が、この日のトレーニングマッチに参加してくれた。
この日は選手の所属しているチームにも関係なく、また日本から参加した大学生もチームに入り、共にサッカーのゲームを行った。
【活動成果】
この2日間実施した後、参加者にコメントを求めたところ、「初めてサッカーの指導をしてもらえて非常に楽しかった」というコメントや、「子供たちに今すぐでも教えられそうだ」というコメントを頂けた。これは先程記載した通り、今までサッカーの指導を受けたことのない者がサッカー指導をしているという現状があり、今回初めて指導者に指導を受けた事で非常に刺激があったのではないかと読み取れる。
この2日間のプログラムを実施し、実感したことであるが、彼らはプレー中、細かいパス交換をするという意識が極めて希薄である印象を受けた。これはカンボジアのグラウンド事情に寄与する所が大きい。カンボジアでしっかりと整備されたグラウンドを目にすることは稀有であり、近年、人工芝グラウンドのコートを目にするようになったが、これはあくまでフットサルコートであり、サッカーコートのサイズでしっかりと整備されたグラウンドを目にすることがない。特に今回の様に乾季だと、グラウンド状況は凸凹でパスを出してもどこにボールが行くか分からないという状況のため、どうしてもロングボールを蹴り込むサッカーに走りがちである。
しかし、サッカーにおいて基本動作であるパス交換が「なぜ重要なのか」を指導する事で彼らは理解し、前向きにトレーニングメニューを理解し、取り組んでいたのが印象的であった。
翌25日、26日に現地の子供たちに対して実施した、トレーニングの主な内容としては、ボールコントロール、2対2の攻防等、基礎的なメニューを実施した。
男子、女子ともに多くの選手が参加し、各日、150名ほどの選手が参加し、非常に前向きに取り組んでいたのが印象的であった。特に、ボールを使わないトレーニングは非常に珍しいようで、皆が積極的に取り組んでいた。
また、女子選手も参加してくれたので、女子のグループも作り、日本より参加した女子学生中心にトレーニングを実施した。カンボジアでは、男子と女子が一緒に競技を行うという感覚が希薄で有る為、こういった配慮を持ち実施していくことも非常に重要であると実感した。
26日は午前中にクリニックを実施し、午後はプール学院大学の中村浩也教授より、サッカー指導している指導者と現地選手に対して、サッカーで多く発生するケガの事例と、ケガが発生した際の処置方法に関して講演を実施した。
現地では、指導者でさえ外傷が発生した際に「患部を冷やす」いわゆる「アイシング」をするという事も知らないという事実にはこちらも驚いた、だが同時に現地で氷を用意する事はそれも困難で有る為、とりあえず水でもよいので冷やす。という事をレクチャー頂き、参加した皆が一様に驚いたようで、必死にメモを取る様子が印象的であった。また同時に、グラウンドを整備する事はケガを予防する最善の策である。と伝えたところ、翌日のグラウンドはゴミを事前に選手、指導者がトレーニング前に清掃し、きれいな状態で最終日を迎えることが出来た。
最終日は、現地の選手、指導者、また日本から参加した大学生が一緒になって20分間のゲームを繰り返し実施した。2日間実施したトレーニングでも非常に彼らは前向きにトレーニングにも臨んでくれたが、スポーツマンシップにのっとり、ゲームをしている時が一番イキイキと楽しそうにプレーしていたのが印象的であった。そして何よりサッカーを楽しんでいるように見受けられた。
終わりに、参加者にコメントを求めたところ、「とても楽しかった」という選手の声や「今後、子供たちに新しいトレーニングをしてあげられそうだ」といった指導者の声を頂く事ができ、成功裏に終える事が出来た。
◆本事業により創出した裨益者数◆
2月23日
参加者数・・・現地指導者20名
見学者数・・・50名
2月24日
参加者数・・・現地指導者25名
見学者数・・・50名
2月25日
参加者数・・・現地選手・指導者150名
見学者数・・・100名
2月26日
参加者数・・・現地選手・指導者160名
見学者数・・・100名
2月27日
参加者数・・・現地選手・指導者50名
見学者数・・・30名
直接裨益者数のべ735名
講習を施した現地指導者が指導する子供の人数
20名(指導者数)×20名(指導を受ける子供)=400名
直接裨益者と間接裨益者の合計
1135名
Ⅲ.今後の課題
今回、本事業を実施するにあたって我々が気を配ったことは、「現地の人々のリズム・レベルに合わせる」という点に最も配慮し本事業を実施した。
実際に何名の選手や指導者が当日来るのか、グラウンドの状態はどのような状態なのか等は当日になってみなければ分からない状況である為、実際の所、現地での活動は常に行き当たりばったりである。
こちらもそれを理解したうえで臨んでいた為、日本でしっかりとしたプログラムを作成し、それを持ち込んでも、現地で生かされることがなければそのプログラムは無意味であると我々が判断したからである。なので当日の参加者の人数や年齢層に応じてトレーニングメニューの変更や、トレーニングのレベルを上げ下げし、現地の参加者に「理解してもらえる」「自分で出来る」レベルをやりながら模索した。これらの事は次回以降も継承すべき内容であり、カンボジアの人々の国民性を理解したうえで事業を行う事は必須条件であると感じる。
今後の課題として最も大きな課題は、“継続性”の問題である。継続して取り組むことが最も良いという事は重々承知であるが、日本からの渡航費用を含めた費用的な側面、日程的な側面等の課題が常に残る。日本から指導できる人材を派遣するにしてもやはり先に挙げた2つの課題は常に残る事になる為、継続した支援を行うにあたっての課題は多い。特に今回非常に強く感じたことは、選手が怪我をしたり、熱中症になった際に、それを処置する知識が日本と比較し、圧倒的に足りていないという点を痛感した。外科的な症状では、処置を怠ったり、誤ったりした際に、選手のプレーヤーとしての寿命を短くしかねない。また熱中症などの内科的症状が発生した際にも日陰で休んで休ませる程度の処置しか行っておらず、また水分補給に関してはミネラルウォーターのみで、ナトリウムやカリウム等の電解質や糖分を摂る事もなく、またそれが必要だという事も現地指導者は知っていなかった。勿論、現地でそれを取得する事が経済的に厳しい部分もあるのだが、知識としてまずは現地の指導者に指導する事の重要性を実感した。そういった取り組みを草の根的に地道に実施するには、やはり“継続性”がなければ現地で理解してもらう事は困難である。
今回の活動を通じて、現地で競技を行っている選手たちがどういった環境でその競技を実施しているのか、またそれを指導する指導者はどれほどの知識を持って指導に当たっているのか、そういった観点から現地で活動を実施する事が非常に重要であるという点である。
我々は今回、カンボジアで2度目のサッカープログラムを実施する事が出来たが、そこで得た最大のものは彼らの競技レベルを上げる事よりも、競技をするうえで発生しうるリスクが日本と比較して非常に高いという実感である。グラウンドの問題、外傷が発生した際の処置とその予防、内科的治療が必要な際の適切な処置の方法など、我々が日本で当たり前だと思いながら行っている事が、現地では当たり前ではないという事例が往々にして発生する。それらを踏まえたうえで“継続的に”活動を行う事が非常に重要であると実感した。今回、プール学院大学の中村浩也教授が実施した講習会はそういった面で今後もサッカー指導と共に継続していくことが、現地の子供たちにとって最も重要で、継続すべき部分でないかと感じる。そして、我々は本プログラムを通じて感じた課題を解決するために、カンボジアの人々と協力し合いながら今後も継続して支援を実施していく所存である。